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幼稚園からのおしらせ
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学校法人 三次伊達学園 三次中央幼稚園



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『お先にどうぞ』       2019年9月30日
 
「実る程、頭(こうべ)を垂(た)れる稲穂かな」──春に年長組の子供達が植えた苗が稲穂を実らせ田んぼ一面黄金色に広がりました。今月の初めには子供達の手で一生懸命稲刈りをして、収穫の喜びを味わいました。広い黄金色の田んぼと稲を刈った後のわらの香り、そしてその田んぼをトンボが気持ちよさそうに飛び回るこの光景を子供達には“秋の景色”として心に残しておいて欲しいものです。真夏から冬に向かおうとする前のこの時季は何となく日本の季節の美しさが心に優しく伝わってくるような気がします。

 私が仕事帰りにコンビニに寄った時の事です。商品を選んでいた私の横に小さな女の子が棚のおにぎりを取ろうと手を伸ばしていました。少し離れた所からお母さんが「一つだけよ。」と、その子に声をかけていました。お母さんは、どなたかと話をされており、その様子から、どうやら誰かのためにお世話役をされるような立派な方だとうかがい知る事ができました。小さな女の子には、とても手が届きそうにないので、私が「取ってあげようか?どれが欲しいの?」と聞くと「あれ」と、たらこのおにぎりを指差しました。私が取って渡してあげると、その子のお母さんが「ありがとうございます。○○ちゃん、“ありがとう”ってお礼言えた?」と優しく一緒にお礼を言ってくださいました。それから、その親子はレジに向かいました。丁度同じタイミングで、ひとりの男性がお酒とおつまみらしき商品を手に持ち並びました。レジは一つ。すると、そのお母さんが「お先にどうぞ。うち、たくさんなので…。」とカゴの中の商品を見せて男性にレジを譲られました。何でもない事なのかもしれませんが、それがとてもスマートで、見ていても気持ちが良かったのです。それだけではなく、その男性がおにぎりを持っている女の子に「ごめんよ。お嬢ちゃん。じゃあ、お先に…。」と微笑んで返したのです。女の子は照れ臭そうにお母さんの顔を見上げ、親子で笑って、「いいよね」とアイコンタクトを交わしていました。その様子を並んで見ていた私に、レジが終わったお母さんは、「さっきは、ありがとうございました。」と、会釈して店を出て行かれたのです。なんて、気持ちの良い数分間だったか。当たり前の事かもしれないけれど、どちらかと言うと忙しい気持ちでササッと買い物をするコンビニで、こんなに素敵な場面に出くわす事ができた事で、私の心にゆったりとした時間を与えてもらった気がしました。

 幼稚園では年長組が、毎月お茶会を経験しています。お作法の中で「お菓子をどうぞ」「ちょうだいします」という挨拶と、隣の席の人より先にお菓子をいただく時には、隣の人に「お先です」と言い、隣の人はお辞儀をして「いいですよ。どうぞお先に」の気持ちを伝えます。この日本の文化の中にも、お互いを大切に思いやり、感謝の気持ちを表す言葉や奥ゆかしい態度が存在しているのです。「お先にどうぞ」と言われて嫌な気持ちになる人はいないでしょう。「お先にすみません」と言われたら「いえいえ、どうぞ。どうぞ。」と気持ちよく譲ろうと思えるでしょう。そして「どうぞ」と言われたら自然に「ありがとうございます」の感謝の気持ちが湧いてきます。こうして心が通い合うのです。

 殺伐としたニュースがたくさん耳に入って来ますが、こんなちょっとした……でも、温かい言葉、ゆとり、その時の相手の気持ちに気づく“お互い様”の心が、平和な空気をつくってくれるような気がします。コンビニで出会った親子のように、こんな言葉が咄嗟に言えるお母さんに育てられた女の子は、お母さんの姿を見て自然に道徳を学んでいるのだと思います。「実る程、頭(こうべ)を垂(た)れる稲穂かな」──人が人として生きて行く知識や教養や常識をしっかり身に付けた人ほど、奥ゆかしく謙虚に振舞えるのだと感じた時間だったのです。より多くの人が、こんな気持ちで人と関わっていけたとしたら、人間関係に傷つく事も傷つける事も……また、醜い争い事もなくなるのではないかと思うのです。

 「お先にどうぞ」──この言葉を言ってもらったら、目を吊り上げて世の中を見てしまいそうになる気持ちも穏やかな気持ちにふっと変えられる、そして、わが身を振り返り、自分の背筋がピンと伸びるような気さえします。相手を思いやる心はいろいろな場面で言葉や態度や姿勢で表す事が出来ます。「お先にどうぞ」には、自分の時間や気持ちをほんの少し犠牲にしてでも、相手の事を大切にしたいという、心のゆとりや広さを感じます。そして、お互いを尊重し合い良い関係を築く事になるのです。「自分が先!自分が先!」と思う心や人に譲れない心には、その人の中にある心の広さは感じられません。世の中には人に道を譲ったり、時間を譲ったり、場所を譲ったりするシーンがたくさんあります。そんな時に状況をみて、「お先にどうぞ」と言えるか?どうしてもそれが無理な時には「お先にすみません」と一言添える事ができるか?そして、その気持ちを受けて言葉や態度で感謝の気持ちを表す事ができているか?────

コンビニでのあの時間、その空気の中に居ながら、そう自分を顧みたりしていました。そして、あの時の大人の素敵なやりとりを目で見て、耳で聞いていた女の子は、十数年後、きっと素敵な大人になっているのだろうなと思ったのでした。
「実る程、頭(こうべ)を垂(た)れる稲穂かな」──古くから伝わるこの言葉に『人間力』を感じます。

田房葉子





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